COLUMN

『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』は、“垂直移動のイメージ”で組み立てられている。

それはティザービジュアルに描かれた「上から垂直に差し込む光」や、キービジュアルの、縦の構図で扉から飛び出してくるアネモネとエウレカの姿を見ただけでもよくわかる。この映画は、主人公アネモネが垂直移動によって階層構造を行き来することで物語が展開していく作品なのである。

これは前作『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』とは全く異なる語り口だ。『ハイエボリューション1』は、時間軸を前後しながらレントンの物語を語るという構成で、即ち“水平移動の映画”だった。そして、この“水平移動の映画”の“上部構造”として『アネモネ』は制作されている。前作の続き―つまり水平方向への延長線上にある作品―ではないというところに『ANEMONE』という作品の仕掛けのおもしろさがある。

『ANEMONE』の舞台は、エウレカという謎の存在に蹂躙され絶滅の危機にある地球である。
アネモネはこの危機を救うため、東京に現れた7番目のエウレカ(=エウレカセブン)の“中”へと精神をダイブさせ、そこで戦いを繰り広げることになる。ここで描かれる「エウレカセブンの中」こそが『ハイエボリューション1』の世界なのだ。
どうしてそのようなことが起きているかは本編を見ていただくとして、ここで大事なのは、アネモネは「ダイブ(垂直移動)する」ことによって、『ANEMONE』の世界から『ハイエボリューション1』の世界へと移動するというその構造の作り方である。

この『ANEMONE』と『ハイエボリューション1』の関係はフレームサイズでも表現されている。
『ANEMONE』における現実はシネマスコープで表現され、エウレカセブンの中=『ハイエボリューション1』の世界は4:3(スタンダードサイズ)で描かれている。つまり『ANEMONE』の世界の中に『ハイエボリューション1』の世界があるという入れ子構造が、そのままフレームサイズの関係として表現されているのである。さらに『ANEMONE』ではスタンダードサイズよりも小さな画面サイズも登場する。それはスマホの縦長画面である。

この画面は、アネモネを残して死んでしまった父・石井賢が、娘を撮影した写真や動画を見せる時に登場する。
父と娘の「心の奥底にある大事な記憶」。スタンダードサイズより小さいことからもわかる通り、この縦長画面こそが、今回の入れ子構造の最深部にあるものなのだ。

本作でアネモネは、シネスコの世界からスタンダードの世界へとダイブし、そこでさらに自分の思い出―スマホの縦画面の世界と向かい合うことになる。そこでアネモネはどのような決断をするのか。
『ANEMONE』はそんなシンプルな映画なのである。

文:藤津亮太